製造業の欠品・過剰在庫をAIで防ぐ!担当者の判断を「組織知」に変えて生産管理の精度を高める方法
| 目的 | 生産管理(在庫管理・原材料の発注判断)にAIを活用し、担当者の判断を組織全体で共有できる仕組みを作りたい |
| 課題 | ・生産計画や発注の判断が、ベテラン担当者の勘に依存している ・欠品による機会損失と、過剰在庫による資金の固定化が同時に起きている |
| 効果 | ・経験の浅い担当者でも、根拠のある発注判断ができる ・需要の癖が組織の知識として蓄積され、担当者が変わっても精度を維持できる |
製造業の生産管理では、生産計画や発注の判断がベテラン担当者の勘に頼っているケースが多く見られます。
過去の実績や季節の波、得意先ごとの発注の癖まで頭に入っている人がいる一方で、同じデータを見ても判断できない人もいる……という現場も多いのではないでしょうか。
判断が属人化したままだと、欠品による機会損失と過剰在庫による資金の固定化が同時に起きたり、担当者の異動・退職でノウハウが失われたりしてしまいます。
そこで有効なのが、担当者の判断をAIに学習させ、会社の資産として蓄積していく「組織知」の形成です。
この記事では、製造業の生産管理のなかでも在庫管理・原材料の発注判断を例に、組織知を形成する方法を、kintoneと生成AIを組み合わせた仕組みで解説します。
目次
製造業の生産管理によくある課題
製造業の生産管理の現場では、次のような課題がよく見られます。
- 生産計画や発注の判断が、ベテラン担当者の勘に依存している
- 欠品による機会損失と、過剰在庫による資金の固定化が同時に起きている
- 需要の波(季節性、得意先の都合)に振り回され、計画の見直しに追われている
- 販売実績や在庫のデータはあるものの、分析されず計画に活かされていない
- 担当者の異動や退職で、発注のノウハウが失われるリスクを抱えている
このように、生産計画や発注の判断を個人の経験に頼っていると、計画の精度が担当者によってばらつき、欠品と過剰在庫のどちらも防ぎきれません。
さらに、担当者が変わるたびにノウハウがリセットされてしまいます。
これからの生産管理はAIを使った「組織知」の形成がカギ
上記のような課題を解決するためには、「組織知」の形成が有効です。
これからは、組織全体でAIを活用して、「AIを使って成果を再現できる組織」になっていくことが重要になります。
ここからは、組織知とは何か、どうすれば形成できるのかについて解説します。
組織知の考え方については、DX担当者勉強会のレポートで詳しく紹介しています。詳細はこちらをご覧ください。
▼AIを使って成果を再現できる組織になるには?|第33回DX担当者勉強会レポート
組織知とは
組織知とは、個人が持つ知識やノウハウを組織全体で共有・蓄積し、組織の資産として活用できる状態にした知識のことを言います。
これからの時代の組織知は「組織知=人的資本 × AI資本」で表せます。
ここで言う「人的資本」とは、社員一人ひとりの知識、判断力、人間関係づくり、発想力、パターンを見抜く力などを指します。
また「AI資本」とは、会社として構築・蓄積していくAI活用の仕組みのことで、ワークフロー、独自データ、AIロジック、評価の蓄積などが挙げられます。
この人的資本とAI資本が相互に学習し合うループを回すことで、他社には無い独自の組織知が形成されていきます。

「個人でのAI活用」と「組織でのAI活用」の違いを整理すると、次のようになります。
| 個人でのAI活用 | 組織でのAI活用 | |
| 目的 | 作業の自動化、効率化 | 学習ループ、独自の「組織知」を形成 |
| 活用方法 | AIを単発で使い、個人の生産性向上に利用 | AIを組織横断で使い、知識・経験・成果をAIに学習させつつ利用 |
| AIの役割 | 人間の作業を補助、スピードアップ | 人とAIが相互に学習する(日々の業務記録や顧客とのやりとり、試行錯誤を人とAIの間で循環させる) |
| ポイント | できていないことをAIにやらせる | AIを活用し付加価値を高める |
使うたびに賢くなっていくAIと共に、自社の業務フロー、専門知識、積み重ねてきた判断力を磨き上げ、共に進化し続ける組織を目指していくことが重要です。
AIで組織知を形成する方法
「組織知」の形成に欠かせない独自の「AI資本」は、次の4つのステップで作られます。
- AIが学習するためのデータベースを作る(一次情報、一次解釈の蓄積)
- AIがデータベースからアウトプットを生成する
- 2のアウトプットに対して、人の意見・判断・成果をフィードバックする
- AIがフィードバックの内容を学び、次のアウトプットに活かす
ここで見直したいのが、管理されている情報の種類です。
打ち合わせ履歴や契約内容、CRMなどの一次情報は、しっかり管理されている企業さまが多いでしょう。
そこに加えて、一次解釈として、担当者の感じたことや成功・失敗などの要因、振り返りなどを登録できるようになっているかがポイントとなります。
kintone × AIで生産管理(在庫・発注)の仕組みを構築する方法
ここからは、製造業での原材料の発注判断を例に、アプリ構築の流れを解説します。
先ほど紹介した組織知形成の4つのステップに沿って、次の流れで進めていきます。
なお、組織知の形成で大切なのは「データを蓄積し、AIの出力に人がフィードバックして学習させる」という仕組みそのものです。
kintone(キントーン)はその受け皿の一例で、同じ考え方は普段お使いの別のツールでも実現できます。
1.現在庫と出庫実績をkintoneに蓄積する
今回の事例では、ステップ1のデータベースとしてkintoneを活用しています。
まず、AIが参照する土台として、次の2つのアプリを作成しました。
1つめは、製品・原材料ごとの現在庫と予定在庫を管理する「現在庫アプリ」です。

2つめは、直近12ヶ月の商品別の月別出庫実績を管理する「出庫数アプリ」です。

さらに、受注・出荷実績、生産実績、在庫推移、発注リードタイム、得意先の内示や引き合い情報、欠品や過剰在庫が発生した経緯もkintoneに記録しておくと、AIが参照できる情報が増えます。
2.コムデック 生成AI for kintoneで発注が必要な原材料を提案させる
続いて、「コムデック 生成AI for kintone」を設定します。

コムデック 生成AI for kintoneは、kintoneに蓄積したデータをそのままAIに渡し、ボタン1つで分析・提案・文章生成ができるコムデックのサービスです。
アプリごとにプロンプトを設定でき、人のフィードバックを組織知として蓄積・反映できるのが特徴です。
今回は、繁忙期情報を入力して「原材料発注の提案」ボタンを押すと、AIが在庫と出庫実績、繁忙期情報をもとに、発注が必要な原材料をリストアップするよう設定しました。

AIが出力する内容は、原材料名、数量(現在の在庫数)、3ヶ月後不足想定数量、リストアップ理由の4つです。
リストアップ理由には、「在庫状況」「使用実績」「トレンド」「在庫切れ予測」「判断根拠」「不足在庫数根拠」が記載されます。
実際に「いくつ発注すべきか」にあたるのが、3ヶ月後不足想定数量です。
例えば、ある原材料では「3ヶ月分の必要数315個 − 現在庫40個 = 275個」というように、不足する数量とその根拠をセットで提示してくれます。

AIが原材料の発注タイミングを判断する仕組みについては、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
▼製造業の在庫切れゼロへ!AIが原材料の発注タイミングを自動判断する仕組みを紹介
ここまでが、AI活用そのものの仕組みです。
組織知を形成するうえで本当に重要なのは、ここから紹介するステップ3と4になります。
3.生産管理担当のフィードバックを組織知の候補として登録する
生産管理担当は、AIの提案を確認し、営業からの引き合い情報や得意先の状況、設備・人員の制約を踏まえて判断します。
修正したい点があれば、出力結果の下に表示される入力欄に、修正内容とその理由を入力して「修正を依頼」します。
例えば「この得意先は内示より多く出る」「この時期は前倒しで作る」といった内容です。00

フィードバックを返すと、その内容に合わせて出力結果が書き換わります。
内容に問題が無ければ「この内容で保存」をクリックします。

このとき「組織知のメモリに追加する」にチェックを入れると、フィードバックが組織知の候補として蓄積されます。

4.管理者が承認し、次回以降のAIに反映する
メモリに追加されたフィードバックは、メモリアプリに「候補」として蓄積されます。

候補はAI設定アプリからも確認可能で、管理者は保存されたフィードバックの内容を確認し、会社の「組織知」として採用する場合は、メモリアプリでステータスを変更するか、AI設定アプリから「承認」します。
会社の方針や考えに沿わないフィードバックは却下し、より良いフィードバックだけを反映させることが大切です。

承認すると内容はメモリ本文に記録され、次回以降AIを動かす時のプロンプトに自動で組み込まれます。

こうしてステップ1〜4を繰り返すことで、AIが自社と得意先特有の需要の癖を学習し、より実態に即した発注判断ができるようになります。
組織知の形成にkintone × AIを活用するメリットとは
今回の仕組みづくりで特に重視したのは、ステップ3のフィードバックです。
発注の判断は、過去実績だけでは当たりません。
「この得意先の内示は当てにならない」「この製品は展示会の後に動く」といった、担当者しか知らない一次解釈が精度を左右します。
そのため、修正した理由を必ず残す運用にすることが、AI任せにならない判断をつくる鍵になります。
具体的には、次のようなフィードバックを蓄積していきます。
- 予測値を修正した製品・得意先と、その理由(内示の癖、営業からの引き合い情報、市況、競合動向など)
- 予測が外れたときの要因分析
- 欠品や過剰在庫が起きた原因と、その時に取った対応
- 安全在庫の考え方(欠品させてはいけない品目と、多少切らしても良い品目の判断基準)
担当者の役割は、AIの提案を確認し、最終的な発注数量を決定することです。
実績が出た後には、提案との差異と要因も記録して、次回以降の精度を高めていきます。
この仕組みを活用することで、欠品による機会損失と過剰在庫による資金の固定化を同時に減らしながら、経験の浅い担当者でも根拠のある生産計画や発注ができるようになります。
計画立案や集計にかけていた工数も削減でき、空いた時間を例外対応や改善活動に充てられます。
さらに、需要の癖が組織の知識として蓄積されることで担当者が変わっても計画精度を維持でき、予測と実績の差異が可視化されることで営業と生産の情報連携も進みます。
kintone × AIで、担当者が変わってもブレない生産管理を実現しよう!
生産計画や発注の判断をベテランの勘に頼っていると、欠品と過剰在庫を防ぎきれず、担当者が変わるたびにノウハウも失われてしまいます。
kintoneで在庫や出庫実績、担当者の判断理由を蓄積してAIで分析し、さらにフィードバックをkintoneを介して共有・活用することで、効率良く「組織知」を形成できます。
今回紹介した仕組みは、コムデックの「製造業 業務改善パッケージ」に組み込まれています。
「発注判断のノウハウを社内に残したい」「AIを活用したいけど何から始めたら良いのか分からない」という方も、ぜひお気軽にご相談ください。









