AIでベテラン技術者のトラブル対応を再現!メンテナンス業の組織知を形成する方法
| 目的 | ベテラン技術者が持つ知識や経験を組織全体で共有できる仕組みを作りたい |
| 課題 | ・故障や不具合の原因特定が、ベテラン技術者の経験と勘に頼りがち ・対応履歴が紙の作業報告書や個人のメモに残っており、社内で検索・活用できない |
| 効果 | ・若手技術者でもベテランに近い精度で原因を切り分けられ、一人で現場対応できる ・必要な部品を事前に把握して現場に向かえるため、再訪問が減り一次解決率が上がる |
メンテナンス業のトラブル対応は、ベテラン技術者の経験と勘に頼りがちな業務です。
症状を聞いただけで原因の見当がつく人、現場で一から切り分ける人、ベテランに電話で確認しないと動けない若手……というように、技術者によって対応力に大きな差がある現場も多いのではないでしょうか。
技術者の高齢化や退職が進む中、この状態を放置していると、会社として培ってきた技術やノウハウが失われてしまいます。
そこで有効なのが、AIを活用した「組織知」の形成です。
この記事では、メンテナンス業のトラブルシューティングを例に、AIで組織知を形成する方法を解説します。
目次
メンテナンス業のトラブルシューティングによくある課題
メンテナンス業のトラブル対応の現場では、次のような課題がよく見られます。
- 故障や不具合の原因特定が、ベテラン技術者の経験と勘に依存している
- 対応履歴が紙の作業報告書や個人のメモに残っており、社内で検索・活用できない
- 若手が一人で現場に行けず、その都度ベテランに電話で確認している
- 一次対応の質にばらつきがあり、再訪問や部品の持ち戻りが発生している
- 技術者の高齢化・退職が迫っており、暗黙知の伝承が課題になっている
このように、トラブル対応のノウハウを個人に頼っていると、一次解決率がなかなか上がりません。
さらに、ベテランの退職とともに、技術そのものが社内から失われてしまう恐れもあります。
これからのトラブル対応はAIを使った「組織知」の形成がカギ
上記のような課題を解決するためには、「組織知」の形成が有効です。
これからは、組織全体でAIを活用して、「AIを使って成果を再現できる組織」になっていくことが重要になります。
ここからは、組織知とは何か、どうすれば形成できるのかについて解説します。
組織知の考え方については、DX担当者勉強会のレポートで詳しく紹介しています。
▼AIを使って成果を再現できる組織になるには?|第33回DX担当者勉強会レポート
組織知とは
組織知とは、個人が持つ知識やノウハウを組織全体で共有・蓄積し、組織の資産として活用できる状態にした知識のことを言います。
コムデックでは、これからの時代の組織知は「組織知=人的資本 × AI資本」で表せると考えています。
ここで言う「人的資本」とは、社員一人ひとりの知識、判断力、人間関係づくり、発想力、パターンを見抜く力などを指します。
また「AI資本」とは、会社として構築・蓄積していくAI活用の仕組みのことで、ワークフロー、独自データ、AIロジック、評価の蓄積などが挙げられます。
この人的資本とAI資本が相互に学習し合うループを回すことで、他社には無い独自の組織知が形成されていきます。
「個人でのAI活用」と「組織でのAI活用」の違いを整理すると、次のようになります。
| 個人でのAI活用 | 組織でのAI活用 | |
| 目的 | 作業の自動化、効率化 | 学習ループ、独自の「組織知」を形成 |
| 活用方法 | AIを単発で使い、個人の生産性向上に利用 | AIを組織横断で使い、知識・経験・成果をAIに学習させつつ利用 |
| AIの役割 | 人間の作業を補助、スピードアップ | 人とAIが相互に学習する(日々の業務記録や顧客とのやりとり、試行錯誤を人とAIの間で循環させる) |
| ポイント | できていないことをAIにやらせる | AIを活用し付加価値を高める |
使うたびに賢くなっていくAIと共に、自社の業務フロー、専門知識、積み重ねてきた判断力を磨き上げ、共に進化し続ける組織を目指すことが、今後より重要になっていきます。
AIで組織知を形成する方法
「組織知」の形成に欠かせない独自の「AI資本」は、次の4つのステップで作られます。
- AIが学習するためのデータベースを作る(一次情報、一次解釈の蓄積)
- AIがデータベースからアウトプットを生成する
- 2のアウトプットに対して、人の意見・判断・成果をフィードバックする
- AIがフィードバックの内容を学び、次のアウトプットに活かす
ここで見直したいのが、管理されている情報の種類です。
打ち合わせ履歴や契約内容、CRMなどの一次情報は、しっかり管理されている企業さまが多いでしょう。
そこに加えて、一次解釈として、担当者の感じたことや成功・失敗などの要因、振り返りなどを登録できるようになっているかがポイントです。
kintone × AIでトラブルシューティングの仕組みを構築する方法
ここからは、kintone(キントーン)とAIでトラブルシューティングの仕組みを構築する流れを、先ほど紹介した組織知形成の4つのステップに沿って解説します。
今回は、空調・給排水設備のメンテナンス業での修理対応を例に見ていきましょう。
なお、組織知の形成で大切なのは「データを蓄積し、AIの出力に人がフィードバックして学習させる」という仕組みそのものです。
kintoneはその受け皿の一例で、同じ考え方は普段お使いの別のツールでも実現できます。
AIによる修理ノウハウ検索の仕組みについては、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
▼kintone×生成AIで修理ノウハウを検索!メンテナンス業の属人化を解消する方法
1.修理履歴アプリに「症状・原因・処置・部品」を蓄積する
はじめに、AIが学習するためのデータベースとして「修理履歴アプリ」を作成します。
機器・設備の情報、点検や修理の作業報告、発生した症状、原因、実施した処置、交換部品、再発の有無などを記録するアプリです。
管理する項目は、依頼日、顧客名、設備種別、機器名・型番、設置場所、設備レコード番号、症状、対応日、対応者、原因、対処内容、使用部品、作業時間、対応結果、注意点・コツ、再発防止策、類似事例・対処法(AIの出力先)です。
ポイントは、作業報告を「症状・原因・処置・部品」に分けて記録できるフォームにすることです。
あわせて「注意点・コツ」「再発防止策」という一次解釈の入力欄を用意しておくことが、のちのAIの精度を左右します。

詳細画面には「AI生成」セクションがあり、AIによる出力結果は「類似事例・対処法」フィールドにレコードごとに保存されます。
2.コムデック 生成AI for kintoneで原因と対処法を提案させる
続いて、「コムデック 生成AI for kintone」を導入し、AIの設定を行います。
コムデック 生成AI for kintoneは、kintoneとChatGPTを連携し、kintone内の情報をAIで活用するためのサービスです。
主な特徴は次の6つです。
- データ参照・検索・分析:kintoneのデータをAIに参照させて、データの検索・分析・入力が簡単にできる
- 複数アプリ横断参照:1つのアプリだけでなく、複数のアプリの情報を横断的に参照できる
- 結果の自動保存:AIによる出力結果をkintoneのフィールドに保存できる
- AI-OCR対応:画像ファイルやPDFファイルを読み込んでデータを登録できる
- 柔軟な設定:参照アプリ、プロンプト、出力アプリなどの設定をすべてkintoneのアプリ内で行える
- リアルタイム実行:ボタンでの実行だけでなく、Webhookを用いたリアルタイム実行も可能
AI設定アプリでは、AIの役割・参照する情報・出力内容をプロンプトとして設定します。
今回は、AIに「空調・給排水設備メンテナンスの熟練技術者(20年以上の現場経験)」という役割を与えました。
今回の修理依頼情報として、設備種別、機器名・型番、設置場所、症状がレコードから自動で差し込まれます。
過去の修理履歴から類似事例を探す際は、スコア制で抽出するよう設定しています。
設備種別の一致、症状キーワードの一致、同一型番シリーズ、同一メーカー、設置環境の類似といった条件ごとに点数をつけ、合計点が高い順に最大5件を抽出する仕組みです。

実際に使うときは、修理履歴アプリで設備種別を選択し、機器名や型番、症状を入力して保存した上で「【メンテ×AI】修理対応ノウハウ検索」ボタンを押すと、AIが動き出します。

AIは修理履歴から同型番や同種の設備で近い症状の事例を探し、どのように対応すべきかを提案します。
出力される内容は次のとおりです。
- 類似事例(最大5件。いつ・どの現場で・どう対応したか)
- 考えられる原因(可能性の高い順)
- 原因を切り分けるための診断手順(測定→点検→確認→処置→動作確認のステップごとに、確認ポイントと異常時の対応、参照した事例番号つき)
- 持参推奨部品(必須度つき。過去の交換実績も添えられる)
- 作業上の注意点(類似事例の「注意点・コツ」から抽出)

ここまでが、AI活用そのものの仕組みです。
組織知を形成するうえで本当に重要なのは、ここから紹介するステップ3と4になります。
3.技術者のフィードバックを入力する
技術者は、AIが提示した原因候補と確認手順を参考に現場で切り分けを行い、実際の原因を特定して処置します。
対応後は「生成結果の確認・修正」画面から、実際の原因と処置内容、AIの提示のどこが合っていて何が違ったのか、判断の決め手になった着眼点を入力して「修正を依頼」します。
今回の例では、次のようなフィードバックを入力しました。

フィードバックを返すと、出力結果が書き換わります。

内容に問題が無ければ「この内容で保存」をクリックします。
保存すると「この修正内容をメモリに登録しますか?」と表示されます。
このとき、AIがフィードバックから組織知として蓄積すべき情報の候補を抽出し、[ルール/事実]の種別と重要度(高・中・低)をつけて提示してくれます。
今回の例では、次のような候補が提示されました。
- [ルール/重要度:高] 原因候補の優先順位は、設置環境や使用状況、現症状などの具体的な現場情報を踏まえて判断する
- [ルール/重要度:中] 故障切り分けは設定・室内風量・室外機運転・室外機周辺と熱交換器の目視確認の順で行うことを優先する
- [事実/重要度:中] 室外機や熱交換器の汚れは冷却性能低下の有力な原因であり、優先的に点検・清掃を検討する
登録したいものにチェックを入れて、「選択した内容を登録」をクリックします。
ただし、登録してもすぐにAIに反映されるわけではなく、管理者が承認するまでは「候補」のままです。

4.管理者がメモリを承認し、次回以降のAIに反映する
登録されたフィードバックは、メモリ候補アプリに「候補」として蓄積されます。
メモリ候補アプリでは、ステータス、メモリ種別、重要度、候補内容、対象AI設定名、由来、承認者、承認日時を管理しています。

AI設定アプリの「メモリ・対話設定」からも、未承認の候補件数を確認できます。

管理者は「メモリ候補のレビュー」画面で内容を確認し、「承認」または「却下」を選びます。
承認コメントや却下理由も残すことができます。
承認する前には、個人情報や機密情報が含まれていないか、今後も普遍的に適用してよい内容かを必ず確認しましょう。
会社の方針や考えに沿わないフィードバックは却下し、より良いフィードバックだけを反映させることが大切です。

承認すると、内容はメモリ本文に即時反映され、次回以降AIを動かす時のシステムプロンプトに自動で組み込まれます。
メモリ本文は「ルール」「事実」「フィードバック」のセクションに分かれていて、1行=1メモリとして、日付・重要度・由来つきで記録されます。
ただし、メモリ本文にはトークンの上限があります。
何でも承認するのではなく、会社として残す価値のあるものを選んで承認する運用が前提です。

このステップ1〜4が一周するたびに、ベテランの判断が会社の資産として積み上がっていきます。
組織知の形成にkintone × AIを活用するメリットとは
今回の仕組みづくりで特に重視したのは、ステップ1のデータベース作成と、ステップ3のフィードバックです。
ステップ1では、作業報告を「症状・原因・処置・部品」に分けて記録できるフォームにすることが出発点になります。
ステップ3では、ベテランが何を見てその原因にたどり着いたのか(切り分けの順番、着目した音や部品の状態など)という一次解釈を残すことが、暗黙知を組織知に変える鍵になります。
具体的には、次のようなフィードバックを蓄積していきます。
- AIが挙げた原因候補のうち、実際の原因はどれだったのか/候補になかった原因は何か
- その原因にたどり着いた切り分けの手順と着目点
- 現場でしか分からない条件(設置環境、使用状況、お客さまの使い方の癖)
- 処置後の再発の有無と、根本対策として何をすべきだったのか
これらを重ねることで、ベテランの頭の中にあった「症状から原因を絞り込む道筋」が会社の資産となり、誰でも同じ手順で原因にたどり着けるようになります。
この仕組みを活用するメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
- 若手技術者でもベテランに近い精度で原因を切り分けられ、一人で現場対応できるようになる
- ベテランへの問い合わせが減り、ベテランが難案件や育成といった本来注力すべき仕事に時間を使える
- 必要な部品を事前に把握して現場に向かえるため、再訪問が減り一次解決率が上がる
- 復旧までの時間が短縮され、お客さまのダウンタイムが減って満足度が向上する
- 技術者の退職や高齢化があってもノウハウが会社に残り、対応品質を維持できる
- 蓄積された故障パターンから、予防保全の提案や部品在庫の適正化にもつなげられる
kintone × AIでベテランの技術を会社の資産にしよう!
メンテナンス業のトラブル対応をベテランの経験と勘に頼っていると、技術の伝承が進まず、一次解決率もなかなか上がりません。
今回はkintoneを例に、修理履歴と一次解釈を蓄積してAIで分析し、さらにフィードバックを共有・活用することで、効率良く「組織知」を形成できました。
ツールが変わっても、この「蓄積→生成→フィードバック→学習」のループを回せる仕組みであれば、同じように組織知を育てていけます。
「技術の伝承」と「一次解決率の向上」を同時に実現できるのが、この仕組みの大きな魅力です。
コムデックでは、kintone × AIの活用をサポートする「コムデック 生成AI for kintone 導入コンサル」というサービスを提供しております。
「ベテランの技術を若手に引き継ぎたい」「AIを活用したいけど何から始めたら良いのか分からない」という方も、ぜひお気軽にご相談ください。









