20年後のウイスキー、妄想と投資の楽しみ
最近ちょっと気になったニュースがあって。キリンの社員が考えた「人生を共にするウイスキー」っていう。
おお。なんか凄そうですね(笑)
なんと11万円もするらしいです。
何年ものですか?
20年ものなんですが、なんと買った時には20年経ってない。
通常の20年ものって、20年間樽で寝かせたウイスキーを瓶に詰めて売るわけです。
そうですよね。
もちろん寝かせる期間が長いほど高いわけです。手間と時間がかかっているので。
響の30年は30万円以上しますからね。
そうなんです。でもこのウイスキーは樽で寝かせる前に買うわけです。
先物買いみたいな感じ?
まさにそんな感じです。今から20年間熟成させるので飲めるのは20年後。
「こんな酒を買うやつがいるのか?」ってことで、社内では大反対だったそうです。
でしょうね(笑)
クラウドファンディングで1億円を達成したら商品化するということになって。
結果はなんと開始4分で1億円売れちゃったそうです。1日で2億6000万円を超えたっていう。
すごいですね。何か仕掛けがあるんでしょうね。
20年間待たないと完成しないウイスキーなんですが、途中の節目で小瓶が届くらしいんです。
「今はこんな味です」みたいな感じで。
これ0年目のやつも送ってくるみたいですね。
はい。0年、3年、7年、10年、13年、16年の節目に小瓶が届く。
そして20年目に完成品のウイスキーが届くというスタイルです。
0年目なんて飲めたものじゃないと思いますけど。
樽での熟成が0だから、透明なウイスキーが送られてくる感じでしょうね。
ウイスキーとは呼べない味でしょう(笑)
日本のウイスキーって世界的に大人気で。めちゃくちゃ高いし、買えないんですよ。
だからすごいプレミアが付いてるんじゃないですか。
でしょうね。なにしろ1本11万円ですから。
おそらくこのウイスキーを買った人は、この小瓶たちを飲まないんじゃないかなと思います。
0年なんて飲んでもただ不味いだけでしょうから。でも置いといても美味しくはならないですよ。
ワインとは違うので。
いいんですよ。美味しくならなくても。置いとくだけでいいんです。
「人生を共に生きるウイスキー」という、その名前の通り、その節目節目のストーリーを買っていく商品なので。
眺めて楽しむってことですか。
ウイスキーというものは樽熟していって、どんどんその味に深みや彩りを増していくわけです。
「20年かけて自分の人生がどう変わるのかな」という思いを馳せながら、そのウイスキーと共に生きるという商品ですね。
なるほど。
飲み物として買っているとは思えないわけですよ。
確かに。美味しいかどうかなんて飲んでみないとわからないですからね。
まだ出来てもいないもの買うわけですから。
味ではなく、そのコンセプトやストーリーや「これから20年どうなるんだろう」みたいな自分自身を想像しながら、自分の投資を楽しむわけですよ。
昔読んだ星新一の小説にそういう話がありました。
隣の家に届いた郵便物を預かるんですけど、隣の人がいつまで待っても帰ってこなくて。
その中身が気になって仕方ない。
なるほど。妄想し出すわけですね(笑)
そうなんです。「生ものだったら大変だぞ」「数日経ったし生ものじゃなさそうだ」「一体何が入ってるんだろう」って毎日妄想し続けて。
頭から離れなくなっていく。
面白いですね。
気になるけど開けちゃうと意味がなくて。それと同じですよね。
このウイスキーも。飲んじゃうと意味がなくて。
そうなんですよ。0年から順番に飲んで味比べを楽しむというのもありなんでしょうけど。
「これ飲んだらどんな味なんだろうか」って妄想する20年の方が楽しい。
20年経つ前に死んじゃったりして。
いや、18年目で死んだとしても、飲まない18年のほうが価値はあるってことですよ。
確かに言われてみたらそうかもしれません。人生なんてそんなことの積み重ねですもんね。
最後20年のものが届いて飲んだとすれば、その20年というストーリーはある種完成ですよ。
デアゴスティーニっていう本あるじゃないですか。毎月部品が届くやつ。あれと似てますね。
確かに。20年後に「次25年物が出ます」とか言ったら、絶対買っちゃいますね、これ。
次あんのかい!みたいな。
また3年刻みで出てきたりして。
100年物ぐらいまで続いたら面白いでしょうね。ライフタイムバリューめっちゃ長い商品ですよ。
だから飲んじゃいけないんです。というか飲む人は買わない。
高いワインもセラーで寝かせている間がいちばん幸せですもんね。
どんな味なんだろうって想像してセラーの外から眺めたり。
これはいろんな商売のヒントになりますよ。考えた社員は天才的ですね。