 >  対談一覧  >  第14話『“回し”という仕事』
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人生の機転
店長が変わって、その人との出会いによって僕の人生が変わりました。
 生田
生田 安田
安田店長って何歳ぐらいの人ですか。
ちょうど僕の一回りぐらい上。当時32とか3とか。
 生田
生田 安田
安田その人は仕事ができたんですか。
仕事もできたし、気づかいもできたし、冗談も言うし、お客さんからも好かれるし。
 生田
生田 安田
安田「この人みたいになりたい」と思ったわけですか。
「めっちゃええ人やなあ」と思って。
 生田
生田 安田
安田「この人のために頑張ろう」みたいな?
そうですね。売上と原価の話とか、働く意義みたいな話を、たくさんしてくれて。
 生田
生田 安田
安田キャバクラで「働く意義」を教えるって、凄いですね(笑)
「お客さんが延長することで、こういうサービスを提供することになるから
働くってことは、こういう価値を生み出すことなんだ」みたいな。
 生田
生田 安田
安田よく分かりませんけど(笑)
いろんな“カルピスの原液”みたいな話を注入されたわけです。
 生田
生田 安田
安田なるほど。人生の本質みたいな話ですね。
そうです。
 生田
生田 安田
安田そんなの「知らんがな」って子も多いですけど。生田さんはそういう話に興味があったんですか。
たぶん、その人にちょっと懐いていたんでしょうね。
 生田
生田 安田
安田リスペクトしてたってことですか。
はい。その人の言葉だから、「ああ、働くってそういうことなのか。だったら面白いかもな」って。
 生田
生田 安田
安田「こうやったら稼げるよ」とかじゃないんですね。
違いますね。
 生田
生田 安田
安田若者を巻き込むにはそっちの方が早そうなのに。
お金では釣らなかったですね。まあ時給は上がっていきましたけど。
 生田
生田 安田
安田それで店長を目指すようになったんですか。
スキルにマインドも備わって、「社員にならないか?」って話になってきたんです。
 生田
生田 安田
安田で、どうしたんですか?
社員になりました。
 生田
生田 安田
安田社員試験とかを受けて?
「社員なりまーす」「どうぞー」みたいな。そんなノリ(笑)
 生田
生田 安田
安田簡単ですね(笑)
超簡単(笑)
 生田
生田 安田
安田社員になったら何が変わるんですか。
まず固定給に変わる。固定給は25万ぐらいですかね。
 生田
生田 安田
安田当時の大卒初任給よりかなり高いですよね。
そうですね。でもお金だけじゃなかったです。
社員になるインセンティブを僕は3つ感じていて。そのひとつが給料。
 生田
生田 安田
安田あとのふたつは何ですか?
好きな店長と「もっと楽しく仕事できるだろうな」っていうのと、あとは役職がつくこと。
 生田
生田 安田
安田役職がつくとどうなるんですか。
箔がつくし給料が上がる。そんな感じです。
 生田
生田 安田
安田なるほど。ヒエラルキーの上に行けると。
そうです。でも僕にとって重要なのは仕事内容が変わることでした。
 生田
生田 安田
安田どう変わるんですか。
アルバイトはホールしかやらないんですけど、キャバクラでもっとも花形といわれているのは“回し”という仕事なんです。
 生田
生田 安田
安田それはどういう仕事ですか。
「○○ちゃん、きみはあそこの席に行ってください」ってキャストをお客さんのところに付けて、店を回す仕事ですね。
 生田
生田 安田
安田それって店長の仕事じゃないんですか。
店長がやるケースは多いです。「回し」という能力の高い人が店長になっていくから。
 生田
生田 安田
安田なるほど。順番が逆なんですね。
難しい業務で、かつ花形だから、これがうまくやれるやつは出世して店長になる。
 生田
生田 安田
安田生田さんは店長でもないのに「回し」をやらせてもらえたんですね。
「たぶん生田だったらできるだろう」みたいなのがあって。
「社員になったら、すぐ回しもさせてあげるよ」というのが、大きな動機づけでした。
 生田
生田 安田
安田なるほど。「回し」という仕事がやりたかったと。
そうなんです。
 生田
生田 安田
安田回しって何が難しいんですか。人気のある女の子って、だいたい決まってますよね。
決まってますね。
 生田
生田 安田
安田人気のある女の子をいかに効率よく回していくか?
そこは大事なんですけど、それだけではなくて。キャストとお客さんの相性を見抜くとか。
 生田
生田 安田
安田お客さんの好みのタイプを見抜くってことですか。
大人しそうなお客さんに “押し”タイプの女の子をつけるのか、“引き”のタイプの女の子をつけるのか。ここが回す人間の力量ですね。
 生田
生田 安田
安田可愛い子をつければいいとは限らない?
限られたリソースの中でエース級ばかり付けるわけにいかない。
押しが強いのをつけりゃいいってわけでもない。「どう配置すると、いちばんお店が儲かるか」を考える。
 生田
生田 安田
安田なるほど。結構のレベルの高い仕事ですね。
レベル高いです。たとえば女の子が20人いて、その中の5人がめっちゃ可愛いかったとして、お客さんが20人入って来たとしたら。
 生田
生田 安田
安田どうするんですか。
可愛い5人をひとつの卓に集中させたら、他の卓の客は帰っちゃうかもしれない。
 生田
生田 安田
安田そりゃそうですね(笑)そこはバランスよく。
問題は女の子をどう入れ替えていくか。
基本は50〜60分の中で3人ぐらいの女性に接客されるんですね。15分ずつぐらい。
 生田
生田 安田
安田その中のひとりは可愛い子をつけるとか。
延長前に可愛い子を持っていったほうが「もうワンセットいこうかな」「延長しようかな」ってなるじゃないですか。
 生田
生田 安田
安田確かに。せっかく可愛い子が来たのに「時間切れ」とか、ありますよね。
逆に可愛い子がいなくなったら、「この機会に帰ろうか」とか。
 生田
生田 安田
安田なりますね。同じ組み合わせでもつけるタイミングで売り上げが変わると。
そうなんですよ。だから店の売上を決めるのは回しの能力と言われてます。
 生田
生田 安田
安田同じ卓で誰に可愛い子をつけるかも考えるんですか。
もちろん。席の中でイニシアチブを持っている人に合わせます。
 生田
生田 安田
安田それはお金を払う人ってことですか。
常連の場合もあるし、「今日はこの人を接待してあげないといけない」ってケースもある。
 生田
生田 安田
安田それはどうやって見抜くんですか。
常連の人が教えてくれます。それを聞き出せる関係性をつくっておかなきゃダメ。
 生田
生田 安田
安田凄い仕事ですね。ちなみに回し係ってフロアに何人ぐらいいるんですか。
ひとりでぜんぶ仕切るんです。だから面白いんですよ。
 生田
生田